特集ページ

新副園長大沼先生・父母教師会河尻会長 対談記事

今年度より副園⻑となられた大沼亜紀子先生は、聖母幼稚園の先生としてお勤めされていたところを心機一転カナダに渡り、カナダの園でお勤めされていたところを昨年帰国されて聖母幼稚園に復帰されました。このような国際経験をお持ちの幼稚園の先生というのは、大変珍しい存在です。カナダの園ではどのような幼児教育をされていたのか、そのご経験がこれから聖母幼稚園にどのように生かされるのか、皆さまを代表して父母教師会の河尻耕太郎会⻑がお話を伺いました。
(執筆者:土浦聖母幼稚園父母教師会本部 副会⻑ 片山寛子)

大沼亜紀子先生と河尻耕太郎会長


河尻会長もアメリカ・フランスと2度の海外赴任経験があり、帰国後に感じることなどお2人ならではの会話に花が咲きました。


河尻会長

本日はお時間いただきありがとうございます。色々なお話しを伺いながら、大沼先生のお考えを引き出せればと思っています。よろしくお願いします。
早速ですが、昨年カナダから帰国されたということですが、どのくらい行かれていたのですか?

大沼先生

トータルで13年。そのうち働いていたのは8年くらいかな。日本の免許が書き換えられたのでそれですぐ現場に入ったのですが、カナダのことが何も分からないからとても戸惑ってしまって・・・。それである時にこれは学校に行くしかない!と決意し学校に入り直したりもしていました。

河尻会長

そうだったのですね。

大沼先生

向こうは免許が3種類あって、日本のものが書き換えられるのは“Early Childhood Educator Basic”(正規保育士資格)なのですが、それ以外の2つ“Infant and Toddler”(3歳以下の子どもを専門とする免許)と“Special needs”(特別なサポートを必要とする子どもを専門とする免許)の両方を取得する為に学校に行きました。そこでようやくカナダの事が理解できたと感じることができました。

河尻会長

カナダではどのような所にお勤めだったのでしょうか?

大沼先生

向こうでは条件の良い職場を求めて転職するのが普通なので、私も何度か職場を変わりました。最後の3年間程勤めた所は大学付属の園だったのですが、そこでの経験がとても刺激になったし、勉強になりましたね。まず同僚の先生方が「私たちは保育のプロフェッショナルだ」という誇りを持って働いていて、勉強会でも「自分たちのやっている事はアカデミックなことなんだ」という姿勢で臨んでいるんです。そこで一緒にやったことはとても大きく、自分に自信がつきました。聖母幼稚園でも今年度から始めたドキュメンテーションもここで実施されていたことなんですよ。

※ドキュメンテーション:先生が日々の子ども達の様子を写真に撮ってそれに対してコメントを記載し、日常を紹介するもの。

聖母幼稚園に新しい風を呼び込む
河尻会長

そのようにカナダで充実した生活をされていた中で、聖母幼稚園に戻ろうと思われたのはどのようないきさつだったのですか?

大沼先生

昨年の1月に前任の待田副園⻑先生から直筆のお手紙をカナダにいただいたんです。そこに自分の後の副園⻑として聖母幼稚園をお任せしたいとあって。それで一度直接お話しをしたいと思い、オンラインで待田先生、新野先生、マーフィー神父様とお話ししました。カナダに渡る前の聖母幼稚園時代には本当にお世話になった方々でしたので、お気持ちは本当によくわかりましたし、熱心に説得もしていただきました(笑)
ただ、私も向こうでの生活が⻑かったので向こうの考え方になっている部分もあって、上手くいかないんじゃ無いかという不安もお伝えしたんですけれど、そういう新しい風が必要なんだと言っていただいて。その場では一度考えたいと言ってお返事は保留にしましたが、熟考の結果お受けすることにしました。

河尻会長

向こうで続けるといった選択肢もあったんですよね?

大沼先生

そうですね。勤めていた大学付属の園と保育士養成施設が一体化したラボを作る計画があって、私はそこに行く予定だったのでそれを楽しみにしていた部分もあったんですけれど、日本に戻ってやってみたいという気持ちは前からあったし、巡ってきたチャンスは掴んでいこう!と思って決めました。

河尻会長

なるほど。そんな事があって聖母幼稚園に戻られたのですね。これから聖母幼稚園でやりたいことなどありますか?

大沼先生

そうですね。やりたいことはいっぱいあるんです。昨年9月に戻ってきた時はそれが全開だったんですけど(笑)、ちょっと落ち着かないといけないなと反省して今に至っているところです。

河尻会長

海外から戻ってくるとありますよね、そういうの。

大沼先生

というのも、向こうで勤めていた園が全くタイプの違うところで・・・。それが私はすごく好きだったので、久しぶりに日本に帰ってきてギャップを感じました。ああそう言えば、日本ってこうだったなって。そういうの、河尻さんも海外赴任から戻ってきた時にありませんでしたか?

河尻会長

そうですね。僕はアメリカから帰ってきた時に感じましたね。ただこちらに慣れてしまうとあっという間に染まってしまうというのもわかって、いきなり実行するのは難しいけれど、あの時の思いを書き留めておけば良かったなと思っています。

大沼先生

そうそう。私は思ったことを日記のようなものにつけていて、なるべく書き留めるようにしているのですが、あっという間に慣れて忘れてしまっているとも感じていて。ただ先ほども少し話しましたが、ドキュメンテーションを今年度から聖母幼稚園でも始めたことはとても大きいです。

魅力あふれるドキュメンテーション
河尻会長

ドキュメンテーションというのは、レポートのようなものですか?

大沼先生

ドキュメンテーションというのは、写真にコメントをつけて子ども達の日常を紹介するというものなんです。子ども達と過ごしていると、遊びの創造性だったり、自主的に協力しあっていたりと一日に何度も「いいな」と思う場面があるのですが、それを写真に撮ってドキュメンテーションにすることで良いことがいっぱいあるんですよ。
ドキュメンテーションとして作成したものは、保護者の方々とも共有するのですが、言葉だけで伝えるよりも写真から子ども達の様子をより深く知ることができるんです。また教室にその写真を貼ったり、ドキュメンテーションを綴ったファイルを置いておくことで、子ども達自身が見返して「あの時の遊び、今度はこうしてみよう」と、遊びの発展に繋がることもあります。
先生同士も他のクラスのドキュメンテーションを見て、刺激になったり参考にしたりということもできるんです。

河尻会長

それはいいですね!

大沼先生

ドキュメンテーションを取り入れることで先生方の負担が増えてはいけないので、そこは業務を見直して1月から試験的に始めていたのですが、写真を撮って記録することで、今まで見逃していたことに改めて気づくことが出来たと先生方にも好評だったので、4月から本格的に始めることにしました、私がこれから期待することは、これを続けていくことで遊びの方向性やカリキュラムをもっと柔軟に変えていけたらと思っています。

河尻会長

素晴らしい取り組みだと思います。これはもっと内外にアピールして行きたいところですね(笑)

大沼先生

元々ドキュメンテーションはイタリアのレッジョ・エミリア市発祥の教育方法論の手法のひとつなんです。他にも特徴的なものがいくつかあって、私はこれをカナダの園でやっていましたが、最近日本でも私たちのような教育者が受けるワークショップで徐々に紹介されるようになってきているんですよ。けど私が思うのは、いいものを取り入れるのはいいけれど、そっくりそのままやるのは日本では違和感があるところもあるなと。日本にもいいものが沢山あるし、日本の文化に沿って応用して取り入れることで、日本の文化も大切にしていきたいと考えています。

大沼先生がカナダの園で撮影された写真より


レッジョ・エミリアの手法では、子どもの想像力を使って見立てて遊ぶ「ルースパーツ」と呼ばれるものをおもちゃとして使っている。ここではナプキンリング、平べったい小石、チェスの駒のような木のパーツ。


一番大切なのは土台作り
河尻会長

僕が園に一番期待していることは、ノウハウを教えることではなく、子どもひとり一人をしっかり見ていただくということかなあと思っています。

大沼先生

ノウハウや知識、技術的なことはいくらでも後から身につけることができるので、私も大切なのは土台づくりだと思っています。好きなものを見つけて、それを深く探求することが出来るのは幼稚園だからこそできるんじゃないかと思うんです。なので、そういう風に変わっていけたら。

河尻会長

土台になる力が大切というのは、全く同感です。

大沼先生

今教育の現場も変革期にあって、単に点数を取るような教育からグリット力(やり続けられる能力)を大切にするような方向に転換していく最中かと思っています。それに乗り遅れないようにという意識はもちろんあるけれど、時代がどんなに変わっても大切なものは変わらないので、それを大切にしたいという気持ちもあります。

河尻会長

聖母幼稚園には、子ども達が大きくなって園を訪れても自分のことを分かってくれる先生がきっとそこにいるという安心感がありますよね。教育的に学ばせることは大事だけれど、心の部分はもっと大事だと思います。

大沼先生

やはりそこはカトリックの園なので、人に対しての優しさだったり愛だったりというのは大切にしていますね。

河尻会長

そういうのって、伝えにくいですよね。当たり前すぎるというか。

大沼先生

目に見えないもので大切なものは沢山あるので、そこはおろそかになってはいけないと思いますね。

子どもの選択肢が沢山あるカナダの園での生活
河尻会長

話は少し戻りますが、ドキュメンテーション以外にもカナダとの文化の違いみたいなものを感じたものはありましたか?

大沼先生

文化の違い…いっぱいありますよね。私が勤めていたところはdaycareなので保育園だったのですが、9:00と15:00のsnacktime(おやつの時間)は、9:00〜10:30の間に食べたくなったら取りに来るというスタイルで、こんな風に子どもの選択肢が沢山ありました。ひとクラスにひとつ保育室から繋がる園庭があって、常にドアは開かれているので遊びに行きたくなったらいつでも行けるんです。

河尻会長

へえ〜。自由なんですね。

大沼先生

そうなんです。また先生方は、子ども達が興味を持ちそうなものを保育室にセッティングして置いておくんです。セッティングするものにはちゃんと意図や目的があるのですが、赤ちゃんが産まれた子のクラスには赤ちゃんのお人形が並べられていたり、お散歩で拾った木の実の隣にはデジタルマイクロスコープを置いてみたり。そうすると先生方が何も言わなくても子ども達はそれを使って、どんどん遊びを発展させて自ら学んで行くということをしていました。

大沼先生がカナダの園で撮影された写真より


お散歩の帰りに拾った木の実や樹皮などと一緒に置かれたデジタルマイクロスコープ


河尻会長

それは興味深い取り組みですね。今日は大変貴重な話を沢山お聞かせいただきましたが、実はまだ質問は用意してあって、大沼先生が幼稚園の先生になられた経緯などもお伺いしたかったのですが・・・。時間が足りなくなってしまいました(笑)

大沼先生

その話をするとなると、⻑くなるんですよ(笑)

河尻会長

じゃあそれは次の機会にしましょうか。次回も是非よろしくお願いします。本日は本当にありがとうございました!